2013年9月22日日曜日

平原綾香 "Jupiter" 10th Anniversary 2013 @ 鳥取 梨花ホール

 希有な声を持ち、デビュー曲"Jupiter"で一躍脚光を浴びた平原。音楽一家に生まれ、洗足学園音楽大学を卒業した歌手は、鳥取の聴衆をまえにどんなコンサートを開くのだろう。なにせ"Jupiter"のイメージが強い。どうしても、クラッシックの音楽会や、NHKぽさが付き纏う。

 10周年ツアーの当日、秋晴れの鳥取砂丘で馬の背から海へ一気に駆け降りたという元気な平原。音楽だけでなく、高校までクラッシックバレエをやっていたり、バタフライが得意というだけあって意外に体力には自信があるようだ。

 "Jupiter"モチーフのオープニングのストリングスが鳴り厳かに幕が開く。正しく鍛えられた声帯と共鳴腔から響く平原の歌唱が会場を包む。MCもなめらかでわたしのステージには静と動があると云い、次第に動へ誘導する。

 ペンライトが揺れる"星つむぎの歌"でサビを一緒に歌わされると、歌いながらアイリッシュダンス(タップ)して、ボイパまで披露し、息が切れる様子もなく踊り続ける。果ては、自身が高二のときの文化祭でやった"Joyful,Joyful"(天使にラブソングを2)で、鳥取の聴衆になんと英語のcall and responseを求める強引さも見せる。 

 ♪You down with G-O-D? vs. yeah,you know me ... everybody!

 ロングドレスに着替え、レ・ミゼラブルでアン・ハサウェイが歌った"I dreamed a dream"を高らかに歌い上げる。ミュージカルではないので、アン・ハサウェイのような歌唱表現をするわけもないが、そのまえに平原は情感を歌に乗せないし乗せられない歌手なのかもしれない。歌そのものより、どうしても「技巧」を聴いてしまうのは、生身の彼女がそこにいないからだろう。
  10年間、ひとの心に届く歌唱になっているか、苦しんできたという平原。いまの平原では自身の生身の情感を歌に表現しきれない。彼女が「共感してほしい」と聴衆に願っても、その硬質な歌唱がその願いを妨げる。それは、平原が抒情詩ではなく叙事詩の語り部だからだ。

 だからこそ、平原は"Jupiter"のような荘厳な楽曲や、アンドレ・ギャニオンの"明日"のように静かに客観的に想いを伝える楽曲では比類ない独自の世界を築き、数多くのファンを魅了している。

 最後の楽曲はもちろん"Jupiter"。"Jupiter"は誰より自分を知っている楽曲で、曲というよりひとつの人格として自分を支えてきたかけがいのないものと云う。逆に云えば、この10年間、"Jupiter"を超えられないままの自分でいるということだろう。
 特色ある低音が印象的な平原だが、高音域でのミックスボイス、それに絡まるファルセットの共鳴は豊かで美しい。エンディングのロングトーンの重厚感と切れも圧倒的だ。

 最前列のファンクラブメンバが立ち上がると、後列もじわじわと続き、それが観客席全てに波及する。平原のパフォーマンスも見事だったが、スタンディングオベイションを鳥取で観ること自体に驚き、感激してしまった。延々と続く拍手。それに応えて、手を振り感謝の意を表す平原。その後、アンコールステージの半ばでグッズ紹介が10分以上続いたので、正直それまでの感激が半減してしまったのが残念f^^;

 序盤で歌った"Eternally"などは、平原の声の魅力を惹きだす数少ない楽曲だ。巧さは際立つが、その声を活かすオリジナル楽曲に恵まれないことも、平原の可能性を摘んでいる。

 来年はミュージカルに挑戦する平原。いつの日か叙事詩から抒情詩へ、生身の自分を表現する歌い方を身に付けたとき、また新たな平原の魅力が開花するのだろう。

2013年9月21日土曜日

倍音フレーバーを練りこんだリップグロス 西野カナ ~Love Collection pink&mint ~

最新アルバム2組 Love Collection  pink/mint 
西野カナのリップグロスには、倍音フレーバーが練りこめられている。

 デビュー5周年のベストアルバム"Love Collection ~pink&mint~"が好調な西野カナ。ファッション紙の表紙モデルになったり、全国のファッションビルに西野カナコーナーがつくられたりと、トレンド・リーダーとしても注目されている。
ファッションビルに展開された西野カナコーナー
アルバム"Love Place"を発表した、ここ1,2年で、西野カナの歌力は劇的な変化を見せている。発声からいえばミックスヴォイスを完全に体得できたこと。そして、それにより従来以上に倍音を生み出す共鳴腔を、作り上げたこと。

 まるでリップグロスに倍音フレーバーが練りこまれているかのように、西野カナの唇から発せられる共鳴は美しく響く。いまの西野カナのクオリティと比べれば、初期の楽曲は地声と裏声の切り分けのツートーンで単調にさえ聴こえてしまう。"私たち"、"たとえ どんなに…"などは、倍音フレーバーの散りばめ方に隙がなく完璧な仕上がりだ。

  楽曲提供者も、西野カナの声をよく知った作り方をしている。次のアルバムがいまから楽しみです^^

2013年9月16日月曜日

台風一過 水谷珈琲 ブレーメン商店街夕景 @ 元住吉

 台風一過の川崎。元住吉のブレーメン商店街はいつもの賑わい。台風が日本を襲った日に伊坂の「終末のフール」を読む。カフェラテは、やっぱり水谷珈琲。明るくて綺麗で美味しくて、落ち着きます^^
輝くエスプレッソマシン


ブレーメン商店街の夕景

白い礼拝堂がある阿佐谷東教会と幼稚園の木製すべり台


まんまるの牧師さんが園長してる幼稚園のすべり台も木製でええかんじでした^^

2013年9月14日土曜日

飯田さつき チャリティJazzライヴ2013 @ 阿佐谷東教会チャペル

 夏の終わりの午後の光が溢れる、真っ白な教会。その阿佐谷東教会の丸っこい神父さんから、さっちゃんとよばれる飯田さつきが俊英達を引き連れJAZZのチャリティーライヴ。
   オープニングは教会らしくアカペラでAmazing Grace。そして、小学生から90代という幅広い年齢の聴衆をまえに、二部構成の本格Jazz Liveが始まる。
 You'd Be So Nice To Come HomeToを皮切りに小気味よいJazzが教会に響きわたる。神は寛容だ。ゴスペルでなくとも、太陽光が溢れる明るい白い教会で、ベースがうねりをあげるのを受け入れてくれる。そう、もちろん、飯田さつきのソウルフルな「ぎらり」ヴォイスも。
  
  被災地に何度も足を運び、おもに調度品の補修作業や、「傾聴」のボランティアを行ってきた飯田。相手を受容し共感する能力が高い飯田の歌は、その歌詞が持つ情感を聴衆の胸に響かせる。

 低音のスパイスを惜しげもなく振りまいたあと、Love Lettersでは一転柔らかなハイトーンヴォイスを光に放つ。神の赦しを得た歌姫は、マライヤのHeroの熱唱で教会を震わせると、テンションの高いMoon Riverでは、ぐるぐる回る月の重力で地球を翻弄する。バンドメンバーも歌にもっていかれたかのように前のめりで、グルーヴは最高潮に達する。 

 When You Wish Upon A Starをパイプオルガンで聴けたのは教会ならでは。

 That a hero lies in you 
ライヴでも被災地でも、飯田が伝えていきたいのは、この言葉なのかもしれない。
 


2013年9月7日土曜日

ZONE secret base / Galileo Galilei @ あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。

   札幌のガールズバンドZONEが「secret base ~君がくれたもの~」で一躍脚光を浴びたのが2001年。

♪きみと夏の終わり 将来の夢 大きな希望 忘れない
 10年後の8月 また逢えるのを信じて 最高の思い出を
http://www.youtube.com/watch?v=XaFPFzW4KcA

   そして、まさしく10年後、その世界観を具現化したアニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」の放映が始る。真夜中にも関わらず、回を重ねるにつれ高い視聴率をあげるようになった。「secret base ~君がくれたもの~」は劇中でも、迷い彷徨う少年少女の夏のドラマを盛り上げた。

めんまの死は、秘密基地に集まっていた超平和バスターズのそれぞれに影を落とす。バラバラになり思春期を迎えてもそれは晴れることはない。ところが、じんたんだけに見える幽霊となってめんまが突如現れてから、また秘密基地に集まってくる。葛藤をのりこえ、見えないめんまへそれぞれの伝えたい言葉を届ける。姿を現しためんまが消える直前に流れてくるsecret baseのイントロに胸が疼く。
http://www.anohana.jp/
 主題歌は、Galileo Galileiの「サークルゲーム」。ギター・ロックバンドテイストをひそませながら、軽やかに夏の風を歌い上げる。夏の終わりにお奨めです。

2013年8月25日日曜日

チキンラーメンとわたし 誕生日のドラムサークル 妹尾美穂 @珈琲美学

The water is wide, I cannot cross o'er,
その水辺は広く 向こう岸へ渡れない
・・・
 
 バースデイライヴは「The water is wide」ではじまった。水面がきらめき、さざめくさまを、美穂ピアノが映し出す。
 love's a jewel when it is new
 but love grows old and waxes cold
 And fades away like morning dew.
 愛の始まりは宝石のようだが、やがてくすんで冷えきって、朝つゆのように色あせてゆく
「The water is wide」に惚れ込んだ妹尾美穂が創り上げたのがいまや定番の名曲ki-ra-ri。ki-ra-riの水の流れは、大河でなく小川の軽快な印象だが、まさしく「流麗」な音の響きが妹尾美穂のピアノだ。

チキンラーメンと誕生日が同じ妹尾美穂は笑顔がよく似合う。「Evening Glow」では鍵盤ハーモニカとピアノの一人二役を披露。息吹の響きが心地よい。

 そして、第二部はドラムサークル。お客さんみんなが打楽器を手にし、思い思いにリズムを刻む。妹尾美穂のファシリテートで、会場が一体となり、歓声が湧き上がる。

この冬、セカンドアルバムの制作の取り組む妹尾美穂。新曲「Zephyr」が象徴するように、また新しい風が吹いてくる。

2013年8月15日木曜日

実写版エヴァンゲリオン Kaijyu vs. Yeager 菊地凛子 @ パシフィック・リム

 全世界を襲う「Kaijyu」と戦う人型巨大兵器「Yeager」。いわば子供向け題材に200億円を投資したハリウッド。菊地凛子は、その超大作ハリウッド映画でヒロインとなった初の日本女優である。

 これまでの観た出演作では、バベルの女子高生役やノルウェーの森での18歳の直子役など、年齢的に無理な設定の印象が強い菊地凛子だが、今回はそれらを一蹴するハマり役だ。なにしろ、監督は菊地をイメージして脚本を作ったというのだからハマらないわけがない。
  
  チャーリー・ハナムとの武術での対決シーンは、凛々しく華麗なハリウッド・ヒロインのオーラに圧倒される。

  内容的には実写版エヴァンゲリオンと呼ばれるほどエヴァにシンクロしているf^^;パイロットとイェーガーとの神経接続やイェーガーの暴走シーンなど間違いなくパクリだ。
  ヒロインにアスカ・ラングレーぽい欧米美人を起用すればもっと興行収入は伸びたと推察できるが、日本の怪獣ものやアニメを見て育った米国監督が、日本へのオマージュを込めて日本人ヒロインと子役(芦田愛菜)を起用したのだと解釈しよう。

2013年8月14日水曜日

ニコール・キッドマン ザック・エフロン 増幅する闇 @ ペーパーボーイ 

 犯罪者に性的倒錯する危ない女とマザコン兄弟のそれぞれの性癖が人間の闇をさらに増幅する。1960年代の黒人差別が残る南部。ぎらつく陽射しと欲望と狂気。殺傷シーンでは観客から悲鳴もあがる。
地元の新聞社の見習いザック・エフロンのまえに突如現れた年上の女。ペーパーボーイにとって、ニコール・キッドマンは、恋人で、母で、性欲の強いバービー人形だった。凶暴な男との沼での生活を後悔しはじめたニコールはあなたが正しかったと手紙を出す。
 ミステリーでもサスペンスでもなく、もはや真相は意味をなさない。陰惨な闇が広がる、そんな映画だった。それぐらい、役者の力量がすごい。

 「イノセント・ガーデン」では、事故で夫を亡くし、葬儀当日に突然と現れた義弟と実の娘に翻弄される情緒不安定な母を演じていたニコール。そのときのインタビューで映画での暴力表現について、こんなふうに答えている。

 「搾取的な暴力は好きじゃないけれど、関連性がある場合に映画で暴力を使うことには反対していない」
 「知的なアイディアが元になっている限り、それに単なる搾取でなければ、そういう作品も検討するし、非理知的に、知的に要求されることもかまわない」
 「そういう要求は受ける気持ちがあるし、オープンに対応する。たとえば芸術を見せるような形だったら、自分の芸術で暴力を扱うこともかまわない。文学や映画という観点では、暴力があることを受け入れているから、時には、進んで自分自身をそういう要求される立場におくつもりもある。」

 ペーパーボーイ、なるほどR15指定です。

2013年8月4日日曜日

謎解きはParadise Kiss(パラキス)のあとで 矢沢あい*北川景子 毒舌執事と刑事令嬢

 映画化された矢沢あいの「Paradise Kiss」(通称:パラキス)は「NANA」と同時期の作品で彼女が漫画家として完成域に入ったときの作品だ。デザイナーセンスが光るキレの良い画力に魅了され惹きこまれると、深い人間洞察から生まれたキャラクターは活き活きと読者のなかで育つ。その若くて未熟な男女の出会いやすれ違いに翻弄させられ、すっかり矢沢あいの世界の漂流者となる。

 












   そのパラキスのヒロインに抜擢されたのが「北川景子」だった。映画「NANA」ではバンドメンバーのキャスティング(中島美嘉・宮崎あおい・松田龍平・成宮寛貴・平岡祐太・松山ケンイチ・玉山鉄二etc)で原作のファンからイメージが違うとブーイングがあったが、北川景子はヒロインとしてど真ん中だった。学園のフェスティバルのデザイナー発表会で仲間が創ったブルードレスを纏う素人モデルはこう云ってステージに向かう。

「大丈夫、任せて。この会場のすべてのひとを、わたしが楽園(パラダイス)に連れて行く」
このときの北川景子は、矢沢あいが描く早坂紫を凌駕した。


 












  2011年度の「本屋大賞」第一位で年間ベストセラーの「謎解きはディナーのあとで」は毒舌執事と刑事令嬢というエキセントリックな設定だが、見事に北川景子がはまる。そして「失礼ながら・・・、お嬢様の目は節穴でございますか?」で始まる櫻井の毒舌は展開がわかっていても笑ってしまう。家族ゲームで鬼気迫る家庭教師を演じきった櫻井の演技は安定感がある。
 それにしても、共演が華やかだ。基本コメディーだし、TVの続きくらいで観に行くとけっこう見応えあるのでお薦めです。

 <TVレギュラー>
  影山:櫻井翔 ・宝生 麗子:北川景子 ・風祭 京一郎:椎名桔平
 <劇場版ゲスト>
  中村雅俊・桜庭ななみ・要潤・黒谷友香・生瀬勝久・竹中直人・鹿賀丈史・宮沢りえ

2013年7月27日土曜日

真夏のぎらり Summertime 飯田さつき @学芸大学 珈琲美学

   ぎらりヴォイスの飯田さつき。正統派ジャズシンガーながら、その低音のキレはぎらり、ざらりと琴線にひっかかる。妹尾美穂の「Ki-Ra-Ri」でなく濁音の声質の魅力だ。オープニングの「Summertime」でも、如何なく真夏のぎらりで、飯田の世界に観客を惹きこむ。
「わたしには珍しい清楚」な白いドレスで登場。14歳から体型が変わらない飯田さつき。その頃のピアノ発表会のときに新調した服だという。昔からあがらない気質で、お客さんがたくさんいると勝手に口角があがるそうだ。

 2曲目の「Love Letters」はボサノバ調で、ぎらりから一転する。Love letters straight from your heart♪のリフレインが優しい。149㎝の小柄な体躯の共鳴腔をたくみに操り、高音域では、軽やかでそして柔らかな音色を生み出す。計り知れない「ぎらり」の魔力。「ふわり」な歌唱表現も素敵だ。


  「How About You?」も楽しい。わたしは6月のニューヨークが好き、あなたはどう?替え歌にして、いろんなHow about you ?を客席に投げかけてくるが、一番、飯田が楽しそうだf^^;

 「Will You Still Be Mine」や「My Foolish Heart」など、恋の行方を危ぶむ歌が妙に似合う。本人曰く、ティーンエイジャーでなくアラサーの今だから表現できると。低い音域から高音域への音調が滑らかで、クリアに響く共鳴が心地よい。

 Jazzの枠に収まらない飯田さつき。映画主題歌の「追憶"The Way We Were"」の歌唱では、ぎらりの魔力に鳥肌が立つ。骨太でスケール感のある楽曲を舞台に、のびやかに高らかに歌い上げる。

 この10月には大好きなニューヨークで、ワンマンライヴとセカンドアルバムのレコーディングが待っている。明るくて、ひとなつこいハイブリッド?フェイスとぎらりヴォイスの飯田さつきを、ニューヨーカーはどんなふうに受けとめるんだろう。
 ニューヨーカーに伝えたい。I like "magic of a ギラリ". How about you ?

2013年7月6日土曜日

海を渡った島唄の20年 宮沢和史 Alfredo Casero & 空飛ぶお姐さん

でいごが血のように紅く色づいた4月にアメリカがやってきて嵐(戦争)がきた

愛を誓ったウージの森(さとうきび畑)。その下に掘られた防空壕で恋人達が自決した

島唄は鎮魂の歌だ。

20周年記念でアルバムが出るという
http://www.bl-dg.co.jp/shimauta2013/

11もの国で日本語のまま歌われる島唄。島唄は風に乗り、鳥とともに海を渡った。
純粋に、この楽曲が持つエナジーが受け入れられ、人の心を動かした。

紅白でも共演したAlfredo Casero の島唄がめちゃ楽しい。
★Alfredo Casero と 空飛ぶお姐さん
 http://www.youtube.com/watch?v=xCPtiazkBcY

空中浮遊するお姐さんの裏拍子の合いの手(アイヤイヤササ)が絶妙です^^

Mebius Mami & Norie 夜の星にのぼって @ダイアモンドダストファルセット

  広島には小さなバー兼ライヴハウスがたくさんあって、地元のミュージシャンや音楽愛好家に演奏の機会を与えてくれる。2010年1月、そんなハコに他の共演者とともにMebiusがいた。酔っ払いのしょうもない話につきあっていると、女性が二人ステージにあがり、スタンドマイクとキーボードに向かった。

 まず呆れた。理解不能だった。目の前にいきなり完成度の高い正体不明のスーパーデュオが現れ、その圧倒的な歌唱(重厚で繊細なハーモニー)に呑み込まれた。いままで、このハコで体験したことのないダイナミズム(力量)が目の前に存在している。60秒もたたないうち、二人の歌声の虜になった。胸が熱くなって叫びたくなるような喜びが湧きあがる。ドーパミンが爆ぜリズムを刻む。とにかくこの才能に出逢えたことが嬉しくて幸せな気分だった。

  ハウスミュージシャン離れしていたのは当たり前で、すでに2008年3月にメジャーデビューしていたMebius。オーディション音源は、選ばれて当然の原石だった。
★デビューシングル「夢のカケラ」のPV (カップリングは「オレンジ」)
 http://www.youtube.com/watch?v=tgtvahJqTpk
 http://www.uta-net.com/movie/63432/  

  筆で有名な熊野にはお好み焼き屋「鏡(かがみ)」がある。もと演歌歌手「鏡きょう子」に纏わりつく熊野中の不良バンドが夜な夜な集っていたらしい。その音楽とお好み焼きを愛する母親から生まれた姉妹が織りなす純度100%のシンクロニシティは奇跡のハーモニーを生む。
 
 
   岡田真実(Mami)と賀江(Norie)。ボーカルパートはどちらがどこを担当しても、質の高い作品となる。ファルセットもそれぞれの特長があり美しい。Mamiは低い音域で始まる「夢のカケラ」を歌うに適した共鳴腔と「オレンジ」で響かせる倍音ファルセットを有する。Norieの共鳴腔は強い音をクリアに遠くまで響かせ情感を運ぶ。それに加えて、ほとんど区別つかない姉妹のダイアモンドダストファルセットがクロスオーバーすると無敵のハーモニーになる。(聴き分けるのはあきらめた)

   アンジーのボイストレーナーとしてもメディアに取り上げれられることが多くなったchibi先生も二人の才能を見出し愛を注ぐ。そのchibi先生が「スコンと前に抜けた」と評する共鳴をもってすれば、愛を失う慟哭はこんなふうに表現される。ツインヴォーカルユニットとしてのプレゼンスを存分に示す作品だ。
★「夜の星にのぼって」
http://www.youtube.com/watch?v=ZMfppx6aY6o

   Norieは遠くに響くよくとおる声を持つ、Mebiusのリードヴォーカルだ。だからこそ、個性をどう出すかで悩む時期がある。力めば、ローングトーンが裡にこもり、外に開放されず、ベタっと重くなる。地声を生かそうとすれば、荒さや雑味が浮かぶ。何度も自分の声に繰り返し向き合って歌唱を磨き、聴衆の心に真っ直ぐに届くクリアで力強い声を手に入れた。芹洋子が手掛け30年前から広島で親しまれている「花ぐるま」だが、まさしく花のような馥郁さを纏うNorieの声に思わず拍手してしまう。この完成域は凄い。
★広島フラワーフェスティバル「花ぐるま」
http://www.youtube.com/watch?v=vDMz6wCNSUY
 
  好きなバンドの曲を聴くと元気が出るってのとはちょっと違う。もっと直接的に生体システムとして物理的に感応させる倍音の威力。いわゆる浄化作用まで生む力がこのハーモニーにはある。
 で、シングルデビューから5年、ようやくそのときが来た。広島CLUB QUATTROでのワンマンライヴの日にアルバム「夜の星にのぼって」もリリース開始とのこと。アルバムひっさげて東京にきてほしい
http://www.candy-p.com/web.php?menu=performance&cmd=artist&id=312

2013年6月26日水曜日

飯田さつき with SKHトリオ ki-ra-ri 妹尾美穂 @珈琲美学 0626

 上質な音楽は心をほぐす。飯田さつきwith SKHトリオ (妹尾美穂・工藤精・長谷川ガク)は大阪のケリーズ以来、半年ぶり。
ジャズサラブレットの飯田さつき。新人ヴォーカリストとしてグランプリを獲り、バークレーで学んだあとニューヨークでライヴ活動。デビューアルバムは2011年のディスクグランプリ35選に入る。
 酒をこよなく愛する色黒サーファーが歌うジャズは、なんとも正統派だが、ここそこに隠しようがないソウルテイストが滲み出る。おさえた歌唱で、上質なジャズ空間に惹きこまれていくと、低音のキレ(ぎらつき)の底知れない魅力を見つけてしまう。ジャズの枠に収めてはいけない飯田さつき。普段のカラオケでは、マライアやビヨンセ、MIISIAやAI、さらに演歌まで楽しんでいると。

 明るい歌詞が好きだという飯田だが、その声が持つ音色は情念を孕む。だから”暗い”歌と紹介する「Cry Me a River」や「Blame it on my youth」が合う。

  しゃべりはジャズ界の「AI」だ。
 「Satin Doll」を、ちら見する男をその気にさせナンパさせ、結局相手にしない性格の悪いギャクナン女の歌と紹介する。
 「My Funny Valentine」では飯田の周辺で「国民的アイドル」と祀られる妹尾美穂のファニーチョコ(美穂だんご)事件で盛り上がる。カステラとチョコがミスマッチの不思議チョコは、来年のバレンタインライヴに味わうことができるらしい。美穂スマイルがいい。会場のみんなが笑顔だ。バンドのグルーヴが伝わってくる。
時節柄、一日中雨の東京。「Here's that Rainy Day」は、雨の日に失った愛を憂う歌。ある舞台で聴いたセリフを引用し、強い雨の音はカーテンコールの鳴り止まない拍手に似てる、今日も雨の音がわたしを讃えてくれる、だから、雨の日も悪くないよと、観客に語りかける。
 「Just Friends」も失恋を憂う歌だが、飯田はただの友達となった相手と今でも食事に行けるという。

 最後にPops。ビリージョエルの「Just The Way You Are」をJazzyにアレンジ。ニューヨークが似合う飯田さつき。アルバムにも「New York State of Mind」が収録されているが、スティングの「Englishman in New York」も歌ってほしい作品。必ず飯田の声が映えると、勝手に仕上がりまで想像してしまうf^^;

 上質な音楽は心をほぐす。4人のプロフェッッショナルに感謝m(__)m

2013年6月22日土曜日

荒井由美「ひこうき雲」 ~庵野秀明*瀧本美織~ @ジブリ「風たちぬ」

 ジブリの新作は「風たちぬ」。エヴァンゲリオンの生みの親「庵野秀明」は作画でなく主人公の「堀越二郎」の声優で参加する。そして、「魔女の宅急便」の「やさしさに包まれたなら」から四半世紀近い時を経て、ユーミンが「ひこうき雲」でジブリとコラボする。

いまから40年前の1973年、荒井由美は「ひこうき雲」でアルバムデビュー。歌謡曲とフォーク全盛の時代、従来の枠に収まらない稀有な才能は、細野晴臣、鈴木茂、山下達郎そして松任谷正隆をも触発し、翌年には荒井由美の感性の結晶「MISSLIM」の完成に至る。
 初めて試聴した荒井由美の世界は異次元だった。ティンパン・アレイの演奏が、グラスハープみたく不思議な音色の荒井由美の声と絡まり、風に乗るように別世界の旅へ誘った。扱いにくい民族楽器のような特殊な声帯は賞味期限が短く儚い。あの頃の荒井由美の声は、珠玉のメロディ(ひこうき雲・曇り空・ベルベット・イースター・雨の街・瞳を閉じて・やさしさに包まれたなら・海を見ていた午後・12月の雨)とともに煌めいていた。
 ファーストの楽曲「雨の街を」のヴォーカル収録で苦しんでいたとき、ピアノの上の牛乳ビンにダリアの花を挿した松任谷正隆に惹かれ、荒井由美から松任谷由美になる。その荒井由美最後のツアー「荒井由美全国縦断リサイタル」のチケットが下の写真。放課後、川端銀座のマスダレコードで奇跡の最前列「あ」チケットを入手。高校生に嬉しい前売り1800円。1000席に満たない箱の鳥取市民会館に来てくれた結婚前の荒井由美に感謝^^
ちなみに鳥取市民会館から駅方向に10分歩くと、「風たちぬ」のヒロイン里見菜穂子の声を担当する「瀧本美織」の実家が経営する居酒屋があって、お昼のお得なランチが人気です。